大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)429号 判決

被告人 勝又高夫

〔抄 録〕

論旨は、被告人のとつた措置は、急病人雨野光夫の生命、身体に対する「現在の危険」を避けるため、やむを得なかつたものであるから、緊急避難ないし過剰避難が成立する、然らずとするも、被告人に対し、本件以外に他に適切な方法を尽すことを期待することは不可能であつたと主張するものである。

よつて本件記録および当審における事実取調の結果に基づき検討するに、被告人は、原判示日の夜、同人方住込みの人夫雨野光夫が胃けいれんにより苦しみ出したため、他の人夫一同からの強い要請により、右雨野を自動車で約一〇キロメートル離れた御殿場市内の御殿場中央病院に運送しようとして、原判示のような無免許運転をしたことが認められる。

ところで、本件の場合、雨野の症状が原判決のいうように必ずしも重篤なものではなかつたとは直ちに断言しがたい(原判決のいうように被告人が警察官に発見された際、警察官に対し急病人のことを告げていないこと及び救急車の出動を要請していないことが直ちに雨野の症状が重篤ではなかつたことを認めしめる資料となるとすることは、いさゝか牽強の嫌いがある。)のであるが、いずれにせよ、雨野が病気で苦しんでいたことは間違いないところと認められるので、同人を医師に診療させる必要のあつたことは、これを是認せざるを得ないのである。この場合、被告人としては、本件のような無免許運転をしなくても、被告人方近所に聖マリヤ病院その他数ケ所の病院があるので、これら病院の医師の来診を求めるとか、あるいは被告人方飯場にある電話で近くのタクシーを呼ぶとか消防署に対し救急車の出動を要請するとか他の有効、適切な措置を講じ得たのではないかということが考えられるのであるが、被告人は原審公判以来当審公判を通じて、近くの病院へ誰かが電話連絡したが医師不在と断わられた、近くのタクシーも若衆が電話したが、出払つてすぐ来られないとのことであつた、救急車のことは全く念頭になかつたという趣旨の弁明をしているのであつて、この近くの病院およびタクシーの件については、被告人の弁明を虚偽として排斥するだけの資料もないので、一応これを措信するとしても、胃けいれんのような案件でも救急車が出動することは記録上明らかであるから、被告人としては、救急車の出動を要請すべきであつたといわれても、致し方がないところである。してみると、本件の場合、本件運転のみが雨野の危難を避ける唯一の手段、方法であつたとはいいがたいので、緊急避難を認める余地はなく、従つて過剰避難も成立しえないし、また、本件被告人の年齢、地位その他諸般の具体的事情の下においては、本件について期待可能性がなかつたものとも認めることはできない。論旨は理由がない。

(栗本 小川 藤井)

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